
いま、なぜ就職氷河期世代の支援が必要なのか
「就職氷河期世代」という言葉を耳にしたことがある方は多いだろう。バブル崩壊後に景気が悪化し、企業が新卒の採用を控えた1990年代から2000年代の「就職氷河期」に学校卒業期を迎えた、現在30代後半~50代前半の世代のことである。
新卒の時期に正社員で就職する機会が前後の世代と比較して制限されたために非正規雇用・無職となり、その後も正社員となれずに現在に至る方が、就職氷河期世代には多く存在する。

こうした就職氷河期世代の問題は、当事者たちだけの問題ではなく社会全体で解決すべき課題といえる。
そこで国は、令和2年度から「就職氷河期世代支援プログラム」を開始した。同プログラムでは、全国92カ所に専門窓口を設置したハローワークの他、「地域若者サポートステーション(サポステ)」、「ひきこもり地域支援センター」などでの支援を行う。ハローワークの職業紹介により3年間で32万人の就職氷河期世代の正社員就職に結びつくなど、一定の成果をあげているという。
ハローワーク支援の特徴は、一人ひとりの課題や状況に寄り添うこと
では就職氷河期世代専門窓口では具体的にどのような支援を行い、効果をあげているのか、ハローワーク渋谷での取組について、統括職業指導官・小駒さんに話を聞いた。

ハローワークの支援が効果をあげているのは、「まずは個々の方の事情を伺って、それぞれの方に合った支援をしている」からだという。
「来所する状況や理由はさまざまですが、就職氷河期世代の求職者の方は、何とか現状から脱却して、安定した仕事に就きたいという強い思いのある方が多い印象があります。年齢や職歴などを理由に、正社員採用は難しいと感じている方も多いので、まずは自己肯定感を高めて、スタートラインに立ってもらうようにしています。それと、過去の経歴は否定せず、今の課題を見つめ、次に進むための具体的な方法を一緒に探すことを大事にしています」
効果的な支援には継続して足を運んでもらえることが大切なため、求職者が前向きに就職活動をできるよう、個人の課題や状況に応じて適切な声がけと具体的なアドバイスを行っていく。こういった姿勢は、応募書類の作成支援や面接指導にも反映されているようだ。
「応募書類を最初からうまく書ける方は少ないので、書き方をゼロベースからアドバイスします。志望動機は1つのポイントですが、その会社の良さを発見したり、社会的な意義に共感したりすることで、そこからつなげていくようにアドバイスしています。会社に興味や好意を持たないと志望意欲は高まらないので、その会社を好きになってもらうことが大事です。皆さん、何回か伝えると書けるようになってきますね。過去の退職理由など面接で聞かれたら答えにくいところは丁寧にサポートしています」
その他に、就職氷河期世代向けに就職活動に必要な基礎知識やスキルに関するセミナーや、企業の面接会も実施している。
「個別の支援以外にも、2カ月に1回のペースでセミナーを開催して、セミナーの翌月は企業との面接会を実施しています。面接会は1社だけでなく合同で行うこともあります。セミナーを受けて終わりではなく、セミナーで心構えなど応募準備を整えたうえで、企業の方に会える機会を設けたいと思っています」
一方でコロナ禍において抑制されていた求人が、最近は増加傾向にあると、ハローワーク渋谷の事業所第一部門統括職業指導官・熊田さんは話す。

「管内では、ここ数年、求人そのものを絞っている会社が多かったのですが、昨年度からは全国的な求人数の増加に伴い、就職氷河期世代限定・歓迎求人も増えました。(全国のハローワークの就職氷河期世代限定・歓迎求人は、令和2年度約6万件、令和3年度約16万件、令和4年度約23万件と、年々増加している)業種・職種を問わず全体的に人材は足りていない印象です。それに伴い、はじめは建設工事や警備員などの現場関係が圧倒的に多かったのですが、最近は営業や事務などいろいろな職種に広がり、就職氷河期世代以外の求人と変わらなくなってきています。業種では、飲食、美容、運輸、警備、建設など人材不足分野が多いですが、その他の業種も増えてきていますね」
とはいえ、就職氷河期世代限定・歓迎求人はまだまだ多いとはいえない。そこでハローワークでは、就職氷河期世代を採用するメリットを伝えることで、企業に自発的に採用増を促す動きをしている。
最近は、声がけのかいもあって、企業の側にも年代にかかわらず働く意欲がある人材を採用することが重要だという考えが浸透してきたという。
「当初は就職氷河期世代=フリーター、ニート、ひきこもりという誤解がありました。その誤解を解くところから始めて、世代に関係なく働く意欲がある方には採用機会を設けたほうがいいですよ、と話をしています。最初の頃よりはだいぶ理解してもらっているように感じています。採用された就職氷河期世代の方の評価が高く、定期的に就職氷河期世代を採用している会社もあります」
40代無職、職歴なしからハロートレーニングで希望する職種へジャンプアップ
ハローワークでは、希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを習得できるよう職業訓練(通称「ハロートレーニング」)のあっせんを行っている。この職業訓練を経て、実際に希望する職種に就けた方も少なくない。ハローワーク渋谷の求職者支援の担当者は次のように話す。
「以前、2級建築士の資格を持っていた40代の方が就職氷河期世代支援の窓口にいらっしゃいました。親の介護もあったようですが、大学卒業後一度も就職しておらず、働いた経験自体が15~16年前の数カ月間のアルバイトしかありませんでした。話を聞いてみると、『できれば建築士の資格を生かしたいが、(図面設計時に必要なソフトである)CADが使えない』とのこと。そこで希望に沿った応募ができるようスキルを上げることを提案し、CADの職業訓練を6カ月間受けることになりました」
職業訓練と並行して、履歴書の書き方等、求人応募のための支援を行っていったという。
うまく思い浮かばないと言っていた志望動機についても、幼いころから街並みや建物が好きで建築士の資格を取ったという本人の話から、そういったところを起点に考えるよう、助言。企業が求めるCADの技術にすべて対応できるわけではなかったが、職業訓練で学んだ内容と入社後も積極的に習得する姿勢をアピールして書くようにアドバイスした。

結果、彼は慎重に応募したい求人を選択して、十分な準備のうえ1社ずつ応募し、4社目の応募で採用が決まった。CADの訓練の終了時点から1カ月もたっていなかったという。
また、他のケースではアルバイト経験しかなかった求職者が簿記の資格を取得して、会計事務所の正規職員として採用された例もある。
「初めてハローワークの窓口を訪れたときは就職を心配する家族に促されて渋々来た印象でした。しかし、じっくり話を聞き趣味や経験を掘り下げていく中で、経理事務の仕事に興味があることに気づき、それに向けて簿記のスキルアップへの意欲が芽生え、自ら勉強を始め、簿記2級の資格取得に至りました。」
試験を通して簿記を活用した実務への理解が深まると、次第に会計事務所で働きたいという気持ちが強くなっていったという。会計事務所は応募倍率が高く、不採用が続いたが粘り強く挑戦を続けた。
「もちろん他の就職先を紹介するなどのサポートも並行して行いましたが、どうしても自分が希望する場所で働きたい、と決して諦めませんでしたね。80社ほど応募したのちに採用を勝ち取りました」
もちろん、全ての方がスムーズに就職先を決められるわけではないが、応募して不採用になった際には、そのフォローも怠らない。
「不採用になると、まるで自分が全否定されたようで落ち込むものですが、採用と不採用の分かれ目は紙一重なことも多い。パーソナリティーを否定されたわけではないんですよね。不採用をあまり引きずらず、新しい会社との出会いを一緒に探していきましょうという姿勢で支援しています。」
国の積極的な支援は新たなステージに

国は令和4年度までの3年間、「就職氷河期世代支援プログラム」によって集中的な支援を行ってきた。
その中で、求職者の書類・面接対策、職業訓練のあっせんから、企業側への採用意欲を高める働きかけまで、ハローワークの「求職者に寄り添った多角的な支援」も、就職氷河期世代の就職に大きく貢献している。
「働くことについてさまざまな悩みがあるかと思いますが、心配はいりません。ハローワークでは、専門のスタッフが一人ひとりの状況を伺いながら希望の就職先が決まるまで、伴走します。とにかく一度窓口に来て、話を聞かせてください。」とハローワーク渋谷の統括職業指導官・小駒さんは、就職氷河期世代に向けてメッセージを送る。
その他、国では「就職氷河期世代」の活躍の場を広げるために、就職のための準備から職場定着・ステップアップまでの継続的な支援を行う「地域若者サポートステーション(サポステ)」、社会福祉士等の資格を有するひきこもり支援コーディネーターを中心に、地域における関係機関と連携して支援を行う「ひきこもり地域支援センター」など、さまざまな施策に取り組んでいる。
また、試行雇用を対象とした「トライアル助成金」が約2,300人分、就職氷河期世代を採用した事業主に支給される「特定求職者雇用開発助成金」も約2万人分が活用されるなど(いずれも令和2年4月~ 令和5年3月時点)、助成金を利用した採用も広がっている。
令和5年度からも、これまでの施策の効果を検証しながら、相談、教育訓練から就職、定着まで切れ目のない支援や、個々人の状況に合わせた、より丁寧な寄り添い支援に取り組んでいく。

【関連リンク】
就職氷河期世代活躍支援特設サイト(厚生労働省)