提供:農林水産省

「#元気いただきますプロジェクト」が果たしたこととは? コロナ禍で打撃を受けた国産農林水産業のいまと、これから。

提供:アフロ

打撃を受ける国産農林水産物に消費者が注目し始めた2020年

それは1年前のこと。世界的に流行する新型コロナウイルス感染症の影響で、国産農林水産物が行き場を失った。特に顕著なのは、インバウンド需要を見込んで生産された飲食店向けの食材で、緊急事態宣言下の2020年4月には、去勢和牛A-5の卸売価格は前年同月比26%安。高級フルーツの代表格・温室メロン(マスクメロン)は32%安、寿司などの高級店に卸す養殖真鯛も33%安と値崩れした。

農林水産省・東京都中央卸売市場のデータを元に作成。品目の名称はデータに基づく

外食需要が減退する一方で、巣ごもりによる内食需要が拡大。3月頃から国産食材の危機がニュースなどで報じられ、生産者からのSOSが消費者にも届き始めた。それと連動するように、「お取り寄せ」や「産直」といった検索ワードの検索数が上昇していることが「Yahoo!検索」の実績から見てとれる。

特に緊急事態宣言が出された4月以降から「お取り寄せ」の検索数の伸びが顕著で、8月にかけて急増している。お取り寄せ需要の高まりとともに、自粛要請等で行き場を失った食材や商品を生産者から直接購入したいとの消費者の思いが高まったと考えられる。この記事の読者にも、ステイホーム中に食材のお取り寄せに挑戦した方がいるのではないだろうか。

食べて応援!全国で応援の輪が広がった「#元気いただきますプロジェクト」

内食需要の高まりは、コロナ禍で打撃を受けた国産農林水産物をインターネットで取り寄せ、自宅で消費しようという「応援消費」にもつながった。

5月、農林水産省は国産農林水産物等販売促進緊急対策事業の一環としてインターネット販売推進事業を開始。これは生産者を支援するため、主に民間のECサイトに協賛を募り、対象となる品目の送料を国が負担(※2021年2月7日までに配送完了したものを対象)するなどして、応援消費を活性化させるもの。プラットフォームとなった公式サイトへの参加数は200社を越えた。

この事業は、8月から名称を「#元気いただきますプロジェクト」とし、大々的に展開。届いた食品や、それを元に手作りした料理などの写真をハッシュタグ「#元気いただきます」を付けてSNSへ投稿するよう呼びかけも。

「#元気いただきますプロジェクト」公式サイト(2021年3月15日で終了)

SNS上では消費者から生産者へ直接お礼メッセージのコメントがつくなどの新しいつながりや、食べることで支援する輪の広がりが可視化されていった。
取り組みの背景には、国産農林水産業の“いま”を救うことはもちろん、インバウンドを含めた外食需要などが回復した際、その需要に応えられる農林水産業者の経営基盤を守り抜き、将来に続く安定供給と産業の発展をも見据えている。

生産者・卸業者と飲食店をつなぐ事業なども並行して展開

プロジェクトは、こうしたインターネット販売推進事業のほかにも食育等推進事業(※2021年1月31日終了)や農林水産物の販路の多角化推進事業(※同2月5日終了)、地域の創意による販売促進事業(※同3月12日終了予定。事業の申請は終了)なども展開。たとえば、販路の多角化推進事業では、全国の生産者・卸業者と飲食店をつなぐ「ぐるなびFOOD MALL」に参加したことで、生産者が新たな販路を開拓できたとの声もある。私たち消費者が利用しているテイクアウトやデリバリーなどのメニューに、こうした生産者から届く国産食材を使用する飲食店があり、自然と「食べて応援」ができる機会も増えた。

「#元気いただきますプロジェクト」は、全国の生産者や流通事業者、飲食店、消費者が循環的につながる大きなプロジェクトに成長し、日本全国へ応援の輪を広げていったのだ。

流通額は2019年から42倍増へ!コロナ禍で発揮されたEC事業の潜在力

「#元気いただきますプロジェクト」に参加した実際の事業者を取材した。
産直ECサイト「食べチョク」を運営する「株式会社ビビッドガーデン」は、同プロジェクトのインターネット販売推進事業にスタート時から参画している。登録するのは、少量生産で付加価値のあるものを売りたいという中小規模の生産者が大半を占める。

代表の秋元里奈さんのもとには、コロナ禍の2月末頃から、登録している生産者からSOSが届き始めたという。
「広島の牡蠣の生産者からは、大きなイベントが中止になり、そこに出す予定だった8000個もの牡蠣が全部余ってしまったという悲鳴が。山口の素潜り漁師は天然サザエの価格の暴落に途方に暮れ、愛知の観光農園主は基軸としていたイチゴ狩りの開催を断念せざるを得ない。非常事態に頭を抱える生産者たちの声が続々と届きました」

SOSは登録している生産者からだけではない。愛知県田原市の輪菊(電照菊)生産者は、需要の激減で価格が10分の1に下落、赤字状態が続き、初めてECに販路を求めた。秋元さんのもとにはそうした新規の問い合わせも殺到した。

「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデン代表の秋元里奈さん(右)

同社は「#元気いただきます」プロジェクトに先駆け、3月から自社で送料の一部を負担し生産者を支援。5月までの3カ月間で、問い合わせや生産者の新規登録が急増し、流通額が35倍に跳ね上がった。会社としていつまで送料の負担を継続できるか瀬戸際だったときに、このプロジェクトに参加。

「とても助かりましたが、参加への怖さもありました。送料が無料だから、安いから買うという人が増えてしまうのではないかと。私たちは、“良質な商品”“生産者とつながる”がコンセプトなので、そこが崩れてしまうのが心配でした。でも、それは杞憂でした」
送料負担なしで購入後、おいしさに感動し、送料を負担してでも良質な商品を多数購入する人が増えていったというのだ。

「生産者から直接買うという体験が広がり、こんなにいいものなんだと気づいてもらえたのではないでしょうか」

直近では、登録生産者は2019年2月の750軒から3400軒と5倍以上増え、月間100万人を超える訪問者を獲得するに至った。プロジェクトに参加後も流通額は右肩上がりで伸び続け、1年間で42倍にも膨らんだ。

提供:株式会社ビビッドガーデン

消費者から届く多くの声が、生産者のやりがいやモチベーションに

秋元さんのもとには、このプロジェクトに参加して助かったという生産者の声も寄せられている。岐阜県大垣市でニジマスやイワナの養殖・種苗業を営む「石井養殖」の石井優二さんも2020年7月からプロジェクトに参加し「食べチョク」で販売を始めた1人。

「石井養殖」代表の石井優二さん

プロジェクト参加のきっかけは、加盟している組合からの案内で、ワラにもすがる思いだった石井さん。年間40t、200万〜300万尾の魚を生産してきたが、数カ月も注文が途絶え、養殖場の池のふちに立ち尽くす日々が続いたという。

「売上げが底をついている状態からの参加でした。消費者さんへ魚を出荷する際は、購入いただいた方の手をわずらわせることのないように内蔵を処理し、グリルで焼くだけの状態にして発送しています。おかげさまでとても好評で、リピート購入も多く、10回ほどリピートされた方もいらっしゃいます」

「食べチョク」内、「石井養殖」のページの投稿コーナーやSNS上では、「魚が苦手な子どももぱくぱく食べてくれた」「ゴミが出なくて快適」といった多くの写真付きレビューに対し、石井さんのお礼の返信も添えられている。率直で温かさを感じるやりとりから見えてくるのは、もはや応援消費を越えて、石井さんが育てた魚に感動した消費者の姿だ。

「石井養殖」での出荷作業風景

「これだけ多くのお客様の声が届くのは初めて。やりがいや現場でのモチベーションアップになっています。私のような小さな経営体の生産者でも、現場にいながら日本中の方々とつながれるのは、ECの最大のメリットだと感じています」

前年に比べ全体的に落ち込みが激しかった取扱い量が、2020年8月からは伸びはじめ、少しずつ右肩上がりに。12月には前年を上回ったという。
「取扱い量や売上げは少しずつ回復してきましたが、実はまだまだ厳しい状況。引き続き、食べチョクさんを軸足に商品を増やして売上げを伸ばしていきたい」と意気込みを語ってくれた。

食品流通も進化。新しい生活様式は生産者と消費者をより身近にする

EC事業とその市場は、今後もますます拡大していきそうだ。一方、従来の食の流通にも大きな影響が生じた。いまをどう捉え、また今後、食の流通はどうなっていくのだろうか?

食品ロス問題専門家・食ジャーナリストの井出留美さんは「新しい生活様式において、接触を回避できるお取り寄せは定着しました。コロナ終息後も、おそらくこの流れが元に戻ることはなく、全体的にEC市場は拡大の方向に行くと思います」。そう答えた上で、「生産者は事業向け(BtoB)を減らし、家庭向け(BtoC)を増やすなどバランスを考える備えが必要」と生産者や食品事業者に対しての心構えを示す。

食品ロス問題専門家・食ジャーナリストの井出留美さん

また、井出さんは「コロナ禍は消費者の食べ物に対する意識を高めた」とも語る。

「日本を含め海外数カ国を対象に行った統計調査※」によると、ロックダウンや外出自粛などが実施された国では、外出自粛中、家庭の中で食べ物を捨てることが減り、食べ物への関心がこれまで以上に高くなったという傾向が見られました。また、お取り寄せで生産者と直接つながることで、『この人が大切に育てた命をいただいている』ということが感じられれば、食べ物を無駄にしないという意識も自然と強くなるはずです」

生産者とつながることで、知らなかった“生産現場の裏側”も見えてくるという。

「実は、いちごの粒が揃っていない、魚のウロコにキズがあるという理由で商品にならずに産地で捨てられている食材がたくさんあります。もったいないですよね。生産者の背景にあるストーリーを知ることで、何を選んで購入するか、選ぶ基準が変わってくるのではないでしょうか。これからの消費行動にはそうした何か新しい価値が生まれてくるのではないかと思っています」

食べて応援する「#元気いただきますプロジェクト」は、食べて応援するだけではなく、それ以上の価値あるつながりと気づきをもたらしてくれたのではないだろうか。ただし生産者や国産農林水産業の危機は、現在進行形だ。農林水産省では、令和2年度第3次補正予算でも引き続きコロナの影響を受けている国産農林水産物等の販路の多様化に向けた新たな取組に対して支援を行っている。生産者を応援するというカルチャーが根付き始め、国産農林水産業が身近になり始めたいまこそ、行動、選択することの大事さが問われている。

※出典:https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20200601-00181339/