提供:厚生労働省

医師の働き方改革──医師がより患者に向き合える病院を目指して。職種をまたいだ業務連携の強化やタスク・シフトの取り組み

写真:アフロ

医師の長時間労働を防ぐには、さまざまな医療職が職種をまたいで業務連携を強化していくことが欠かせない。また、医師の業務負担を軽減する手段として取り組みが進んでいるのが、他職種へのタスク・シフト(業務の移管)だ。2024年4月より「医師の時間外労働の上限規制」の導入が予定されているなか、業務連携の強化やタスク・シフトを積極的に推進している病院に話を聞いた。

医師の負担となっていた手術に伴う外来での準備をタスク・シフト

長野県佐久市にある佐久医療センターは、JA長野厚生連佐久総合病院グループの1つで、高度専門医療に特化した三次救急病院。全身麻酔が必要となる手術は年間約3,000件にも上り、特に外科系の医師に負担がかかっていた。

「手術前には検査をはじめ、事前にさまざまな準備が必要です。かつては、手術の1週間程度前から入院するのが一般的でしたが、DPC制度(※)の導入によって、いまは、手術の前日や当日に入院するのが主流。そのため、外来での手術に伴う事前の準備が医師にとって大きな負荷になっていました」
と話すのは、働き方改善プロジェクトの責任者である副統括院長の西澤延宏さん。手術に伴う医師の業務負担の軽減を図るため、「患者サポートセンター」を立ち上げた。

※急性期入院医療を対象とした診療報酬の1日当たりの包括評価制度

佐久医療センター患者サポートセンター(佐久総合病院佐久医療センター提供)
佐久医療センター患者サポートセンター(佐久総合病院佐久医療センター提供)

医師の生産性が向上し、より質の高い医療提供体制を実現

「患者サポートセンターでは、看護師を中心に複数職種で入院前の対応や退院調整といった入院に伴うマネジメントを行っていて、患者さんごとに担当の看護師が決まっています。また医療ソーシャルワーカーを配置しているほか、薬剤師が持参薬の管理を行ったり、管理栄養士が持病に応じた入院食の食事内容の対応を行うなどしています」

そんな中でも手術に伴う医師の業務の負担軽減に大きく貢献しているのが、「ドクターアシスタント(DA)」と呼んでいる医師事務補助者だと西澤さんは言う。

「手術前にどのような検査を実施するかを決めるのは医師ですが、検査の手配は、ほかの職種でも担当できます。そこで、患者サポートセンターでは、DAが入院予定患者の書類準備や、術前検査の指示入力、クリニカルパスオーダーの代行入力などの事務処理を担っています」

医師がより手術に専念できる環境が整ったことで、若い医師からは「手術の腕をもっと上げたい」などの声が上がっている。患者側も、手術や入院に対する心配なことや、診察の際に医師に直接聞きづらいことなどは、患者サポートセンターの担当の看護師に気軽に相談でき、安心して手術や入院に臨めることになる。

佐久医療センターの外観(佐久総合病院佐久医療センター提供)
佐久医療センターの外観(佐久総合病院佐久医療センター提供)

「実は、手術に関することは、各診療科で独自のルール、いわば“お作法”があるため、ほかの医療職に任せられないという医師もいました。そこで、患者サポートセンターを立ち上げる以前に取り組んだのが、独自のルールの廃止。まずは、2008年に外科から、術前感染症採血の対応や手術安全チェックリストの作成など、手術の際のさまざまな手順を標準化したところ、ほかの診療科でもその動きが広がるようになりました」

こう話す西澤さんは、佐久総合病院グループで、今後、取り組んでいきたい宿日直勤務の課題について、次のように語る。

「地域の住民の方々に寄り添った主に慢性期の医療を提供している当グループの小海分院は、2024年4月以降、医師の時間外労働の上限規制が始まると、夜間は診療できない可能性があります。しかし、若い医師ほど夜間も患者さんの診療を行っていきたいという強い思いがあり、“医師の使命感”と“医師の働き方改革”が天秤にかけられている状況です。都市部とは異なり、車社会で病院数も限られる地方では、地域医療や救急体制をどのように担っていくのか、行政と連携しながら、患者さんの目線で検討することが求められます」

佐久総合病院グループでは、長野県医療勤務環境改善支援センター(以下、勤改センター)に支援を依頼し、働き方改革の推進に努めている。担当の医療労務管理アドバイザーの増田一三さん(社会保険労務士)は、このように話す。

長野県医療勤務環境改善支援センター 医療労務管理アドバイザー 増田一三さん
長野県医療勤務環境改善支援センター 医療労務管理アドバイザー 増田一三さん

「昨年度は、当勤改センターの医療労務管理アドバイザーや医業経営アドバイザーを講師とする、医療従事者の働き方改革のための『管理者向けの労働法等に関する説明会』を実施していただきました。グループで3病院あるのでオンラインでつなぎ、また当日参加できなかった管理者が動画を視聴できるように対応していただきました。今年度は労務管理の改善を中心に支援をしており、引き続き、病院の要望に応じてサポートしていきたいです」

看護師や介護福祉士のサポートで、宿直する医師の負担を軽減

成功モデルを応用して、医師の勤務環境改善に成果を上げている病院がある。医療機関では初となる「均等・両立推進企業表彰 厚生労働大臣優良賞(2016年度)」を受賞した社会医療法人明和会医療福祉センター(鳥取県鳥取市)は、心の医療を広く展開する「渡辺病院」と、慢性期の医療を中心とする「ウェルフェア北園渡辺病院」を運営している。

医師の働き方改革のなかでも対応が難しいとされるのが医師宿直だが、全国の医療機関が試行錯誤の状態にあった2021年3月、同センターは鳥取県で他の医療機関に先んじて、医師宿直許可を受けた。

均等・両立推進企業表彰を受ける明和会医療福祉センター渡辺病院 理事長 渡辺憲さん(中央右)(明和会医療福祉センター提供)
均等・両立推進企業表彰を受ける明和会医療福祉センター渡辺病院 理事長 渡辺憲さん(中央右)(明和会医療福祉センター提供)

「“宿直は労働基準法の例外許可”、医師の負担軽減と睡眠時間確保を徹底しなくては」
と話す、同センター人事統括主幹の竹中君夫さん。労務チームは、宿直日誌や出退勤記録をもとに現況を調査し、万全の備えを行った。

「精神科救急医療を担う渡辺病院では、夜間も相当数の患者さんへの対応が発生します。すべてを医師が担うと、宿直許可基準を超える業務負荷となる可能性がある。そこで電話相談など看護師が可能な対応をタスク・シフトしています。ただ、医師の負荷をスライドしただけでは看護部が大変ですから、看護師の夜勤配置数も増やしています。慢性期医療を担うウェルフェア北園渡辺病院では、入院患者さんが亡くなる際の宿直医師の負荷が注目されます。長期にわたって医師以上に近い距離で患者さんに接してきた看護師や介護福祉士によるサポートは、宿直医師の負荷を軽減します。もちろん看護・介護チームのゆとり体制確保も大切なテーマです」

明和会医療福祉センター 人事統括主幹 竹中君夫さん(中央)、鳥取県医療勤務環境改善支援センター 事務局(鳥取県医師会 課長) 岩垣陽子さん(左)と医療労務管理アドバイザー 西山豊美さん(右)
明和会医療福祉センター 人事統括主幹 竹中君夫さん(中央)、鳥取県医療勤務環境改善支援センター 課長 岩垣陽子さん(左)と医療労務管理アドバイザー 西山豊美さん(右)

薬剤師・臨床心理士・ソーシャルワーカー・事務スタッフ・・・タスク・シフトを広範囲に展開

各職種の採用が順調に進むなか、医師の業務負荷軽減、タスク・シフトは宿直以外の領域にも展開されていると、竹中さんは話す。
「精神科は薬の院内処方を希望し、医師の説明を期待する患者さんが多い。医師と薬剤師の連携強化は、薬剤師による個別性の高いサポートにつながります。さらに薬剤師と看護師の連携によって情報が共有されると、より医師への支援機能が高まります。
手厚く配置されたソーシャルワーカーや臨床心理士は患者さんとのファーストコンタクト(予診)を担います。医師は、きめ細かな情報を把握した状況で診察に臨みますから、患者さんにも優しい。この情報も看護部と共有されます。
医師が大変だから軽微な仕事を他職種へという発想では、タスク・シフトで大きな成功は難しいかもしれません。部門間・職種間の垣根が低く、離職も少ないので部門内の意思疎通も円滑、病院全体で縦横の連携を強化することで、タスク・シフトのレベルを高められると思います」

働き方改革から始まる正のスパイラル

働きやすさが人材確保につながり、その結果、診療機能が高まれば経営が安定する。これにより、さらに働きやすい職場環境づくりへの投資が可能となる好循環が生まれている。

「過去10年以上、看護部で育児理由の離職がないという強みが、医師にも好影響をもたらしつつあります。常勤医師は過去3年で2割以上拡充されましたし、臨床研修の実習等で、当法人を希望される医師も増えているようです」
と話す竹中さんは、今後の目標について語る。

「短時間正職員制度を利用して、育児世代や60歳以上の医師が活躍しています。ストレスチェック制度で医局の集団分析を行うと、健康リスクは低いとする分析結果が出ています。医師一人ひとりが安心して働き続けられる病院は患者さんにも優しい病院です。今後は、他職種と比較して長くなりがちな医師の労働時間について、対策強化に取り組みます」

渡辺病院(明和会医療福祉センター提供)
渡辺病院(明和会医療福祉センター提供)

鳥取県医療勤務環境改善支援センター(以下、勤改センター)は、医療機関・医師会・看護協会はもちろん、鳥取県や鳥取労働局、さらに社会保険労務士会・大学とも連携し、県一丸で働き方改革に取り組んでいる。勤改センター課長の岩垣陽子さんは話す。
「当勤改センターからは、医療労務管理アドバイザーが2人1組で県内の全病院を訪問して、支援をしています。さらに成功モデルの情報を共有する取り組みも進めています。今後も医師の宿日直の許可取得のための情報提供を行うなど、積極的な支援を予定しています」
医師の業務を他職種へタスク・シフトすることは、医師の負担を軽減し、生産性の向上にも寄与する。さらに、患者や家族に寄り添った質の高い医療を提供できることを、2つの病院の事例が教えてくれた。

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