提供:厚生労働省

医師が働きやすい病院にするために──長時間労働の解消や多様な働き方を実現する近道は、円滑なコミュニケーション

写真:アフロ

国を挙げての緊急的な課題となっている医師の長時間労働。2024年4月から「医師の時間外労働の上限規制」が予定されているなか、勤怠管理の適正化や多様な働き方に対応する勤務形態の導入で、職場環境が改善している事例があるという。求められる医師の働き方改革にどのように対応していくか、課題解決に挑んでいる病院の当事者に話を聞いた。

最初のミッションは、医師の出退勤の打刻状況を改善すること

医師の働き方改革への取り組みは、待ったなしの状況とはいえ、現場の医師は患者優先となり勤務管理に意識が及びにくいという現実もある。

兵庫県神戸市にある川崎病院は、職員数は478名で、うち医師は56名。2019年に室長1名、担当者1名の体制で「医師の働き方改革推進室(医師サポート室)」を立ち上げ、医師の働き方改革を進めている。室長の扇谷章治さんは、まず着手した問題について、次のように振り返った。
「当院では当時、出退勤の打刻を常にする医師は3分の1、ときどき打刻する医師が3分の1、常に打刻しない医師が3分の1、という状況が常態化していました」

川崎病院 医師の働き方改革推進室長 扇谷章治さん
川崎病院 医師の働き方改革推進室長 扇谷章治さん

川崎病院の医師の働き方改革の最初の課題は、どうしたら医師の出退勤の管理を徹底できるかだった。

医師の身近な存在になることで、勤怠管理が大きく前進

当時、病院全体としてICカードを導入済であったものの、医師の使用率が高くない現状があった。このため、カードリーダーの設置場所について、打刻しやすい場所を医師より選んでもらうこととした。結果、医局の出入り口以外に、院内の複数箇所にカードリーダーを設置することとなり、医師にとって打刻しやすい環境を整えた。

「医師の働き方改革推進室の場所は、医局の一室の隣にある図書室に設け、常駐するようにしたところ、医師との接点が広がっていきました。出退勤の打刻を促すために、積極的に医師に声をかけるようにしていくうちに、打刻が習慣化されるようになったのです」

勤怠管理の把握を前進させたのは、医師の働き方改革推進室を医師の身近に設け、物理的に医師との距離を縮めたことだった。

川崎病院の外観(川崎病院提供)
川崎病院の外観(川崎病院提供)

有給休暇取得の促進にも取り組んだ。有給休暇を取得する医師と取得しない医師とで差があり、特に、手術や手術後の管理で休日出勤が発生しやすい外科系の医師の有給休暇の取得が少ない傾向があった。

「各科の診療部長が舵をとってくれ、診療スケジュールを考慮しながら、医師間でお互いに有給休暇を取る日を調整してくれるようになりました」
と扇谷さんは話す。院内の組織を挙げての医師の労務環境改善に取り組む姿勢が伝わって、医師全体に問題意識を持ってもらえるようになり、年次有給休暇の年5日の取得義務も100%達成することができた。

医師の勤務時間の管理が厳密に行われ、在院時間の把握が可能になったことで、時間外労働の状況を調べたところ、年間960時間を超えていないことが大方わかったが、扇谷さんは課題をこう語る。
「腎臓内科では、医師2人体制で診療を行っていますが、人工透析を受ける患者さんが多くいます。人工透析は土曜日も行っているため、休日出勤することになり、現在の体制では時間外労働が960時間を超えることが懸念されています。医師の増員は難しいため、抜本的に診療体制(診療時間帯等)を変えての対応が必要となりますが、これは、経営面も考慮しながら考えなければなりません」

医師の副業についてもアンケートを行い、院外での当直の状況を把握しているところだ。
「副業での当直が増え、当院分と合わせると、時間外労働が年間960時間を超えてしまう可能性があります。当院では医師の働き方改革に取り組んで2年ほどになります。今後は集まった情報から見えてきた課題に対策を講じ、改革を実行に移していきたいです」

川崎病院の支援を担当している兵庫県医療勤務環境改善支援センター・医療労務管理アドバイザーの畑中美和さん(社会保険労務士)は、こう話す。
「川崎病院は、A水準(※1)を目指されておりますが、医師の副業のことなど、要望に応じて今後もサポートしていきたいです」

兵庫県医療勤務環境改善支援センター 医療労務管理アドバイザー 畑中美和さん
兵庫県医療勤務環境改善支援センター 医療労務管理アドバイザー 畑中美和さん

※1勤務医の時間外労働時間の上限水準が「A水準」「B水準」「連携B水準」「C-1水準」「C-2水準」と複数設定されている。A水準は2024年度以降適用される水準で、原則、自院のすべての勤務医の時間外労働を年間960時間に収めることになっている。

医師不足を防ぐには、働き方に対する時代の変化に乗り遅れないこと

特に地方では、医師不足が叫ばれるなか、多様で柔軟な働き方を実現することで、医師の増員に成功している病院がある。

福井県福井市にある医療法人厚生会福井厚生病院は、23の診療科があり、病床数は199床。予約による再診の外来診療が中心だが、「頭が痛い」「発熱がある」などの不調で予約なしの患者も来院する。また、入院患者もおり、24時間での対応が必要で、特に夜間は、さまざまな疾患とその症状への対応が求められる。

福井厚生病院 理事長 林讓也さん(左)、福井県医療勤務環境改善支援センター(福井県医療の職場づくり支援センター) ・医療労務管理アドバイザー 塩崎幸代さん(右)
福井厚生病院 理事長 林讓也さん(左)、福井県医療勤務環境改善支援センター(福井県医療の職場づくり支援センター) ・医療労務管理アドバイザー 塩崎幸代さん(右)

「父から当院を引き継いだ7年ほど前は、自分の専門領域に加えて、幅広く患者さんを診ることができ、当直もこなすベテランの医師が中心でした」
と、話すのは理事長の林讓也さん。「子育て中のため勤務時間を短くしたい」「勤務医としてだけでなく、副業での研さんも積みたい」など、若い世代を中心に働き方に対する意識は変化してきている。医師不足を防いでいくには、こうした世代ごとの仕事観の違いや働き方への意識の変化に対応していく必要がある。そこで、勤務条件に制約がある医師でも働き続けることができるように、病院全体で多様な働き方に対応する環境整備に取り組み始めた。

医師の声に耳を傾けていくことで、多様な働き方ができる病院に

働き方にどのような配慮が必要かなど、医師側の希望を雇用契約前の段階で十分にヒアリングし、採用につなげている。

「外来の診療スケジュールは毎月組むことから、月単位で医師の希望する時間や曜日に勤務できる柔軟な診療シフトを導入しています。また、朝遅めの出勤や夕方早めの退勤が可能な時差出勤制度の導入や、宿日直の免除など、多様な勤務パターンを取り入れています」
また、入職と同時に年次有給休暇日数の半分を付与しており、入職からまもない医師でも、家族の行事や、毎年決まっている時期の学会に参加することなどが可能だ。

一方、地域の総合病院としての役割を果たしていくためには、突発的に発生する救急車の搬送付き添いなど、医師に求められる業務にも対応してもらう必要がある。そこで、雇用契約時には、そうした業務内容などを詳細に書面で提示し、理解を得ている。また、医師間での極端な業務量の偏りが生じないようにするため、対応可能な業務は、診療科を超えて医師間で連携している。

福井厚生病院の外観(福井厚生病院提供)
福井厚生病院の外観(福井厚生病院提供)

「年に2回の賞与のタイミングで私、院長、医師での三者面談を行っていて、医師本人から業務の量や内容の実態と要望、気になることなどを聞くようにしています。業務量の多い医師がいる場合は、院長が調整を図ります」
と話す林さんは、独自のシステムによる診療情報を用いた医師の業務支援についてこう語る。

「例えば、糖尿病の患者さんでは、腎機能の低下や視力の低下などの合併症が起こることがありますが、検査結果からそうした兆候がみられた場合は、院内の腎臓内科や眼科へ紹介を促すコメントが電子カルテに表示されるようにプログラムされています」

職場環境を改善するためのさまざまな取り組みが実を結び、医師の数はここ数年増加している。今年の5月には新病棟への移転を予定し、新たなスタートを迎える福井厚生病院。福井県医療勤務環境改善支援センター(福井県医療の職場づくり支援センター)(以下、勤改センター)では、昨年の春から働き方改革の取り組みに関する広報活動の支援を行ってきた。担当の医療労務管理アドバイザーの塩崎幸代さん(社会保険労務士)は、こう話す。

福井厚生病院の新病棟の外観イメージ(福井厚生病院提供)
福井厚生病院の新病棟の外観イメージ(福井厚生病院提供)

「福井厚生病院の職場環境改善の取り組みでは、公平性のある給与体系なども注目されています。当勤改センターでは今年度の特別支援事業(※2)を中心に、いまのよい状況を維持、向上していくための支援を続けていきたいです」

※2各都道府県で医療機関からの希望を踏まえて特定の医療機関を選定し、毎月1回程度、年間を通じた医療勤務環境改善に関する助言等を行う。

医師が働きやすい職場環境を実現していくには、積極的にコミュニケーションをとり、対話を重ねていくことが重要だと教えてくれた2つの病院のエピソード。医師との距離を縮める工夫や、意見を傾聴する姿勢によって、信頼関係を築いていくことが、医師の働き方改革を進めるための大きな一歩になるのかもしれない。

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