提供:厚生労働省

「働き方改革」で一億総活躍社会の実現を――導入企業の好事例から見る推進のポイント

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なぜ今「働き方改革」が求められるのか

2019年4月より「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が順次施行されている。「働き方改革」は、働く人々がそれぞれの事情に応じた柔軟な働き方を自ら選択できるようにすることを目的としている。

「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「長時間労働をはじめとする日本的雇用慣行」など、日本企業の多くが抱える課題の打開策として期待されているが、環境整備にハードルを感じ、法改正への対応に二の足を踏んでいる企業も少なくないのが実情といえそうだ。

「働き方改革は経営戦略。労働者の環境改善は企業経営に直結することに注目してほしい」と、政府の労働政策策定に関わるなど働き方改革に詳しい小室淑恵氏(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)は呼び掛ける。ハードルを乗り越えた先に待つメリットとは、また、成功している企業の共通点はどこにあるのか。

小室淑恵氏(写真はワーク・ライフバランス社より提供。取材はオンラインで実施)

「働き方改革関連法」における3つの柱

「働き方改革関連法」で押さえておきたいのが、次の3本柱だ。

◆各制度の詳細:働き方改革特設サイト「NEXT WORK STYLE」(厚生労働省)

かみ砕くと、「年次有給休暇の取りやすい環境整備」「残業時間の削減」「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」ということになる。働き方改革に取り組んだ企業と労働者に起こっている現状について、小室氏は次のように話す。

「2019年に働き方改革関連法が施行される際、経営者の多くは『業績が落ちるのではないか』と不安の声を口にしていた。しかし実際には、積極的に取り組んだ企業には好影響が及んでいる。「3本柱」への対応によって生まれる共通のメリットとして、社員間の格差や不公平感を軽減できることが挙げられる。十分な休息がとれ、待遇への納得感が高まったことで社員同士の結束が強くなったり、従業員満足度の向上で離職率が低下したりと得られる効果は大きい」

また、生産年齢人口の減少で今後さらに人材不足が続いていく日本において、働き方改革の推進は優秀な人材を確保する切り札になり得るだろう。「採用難に苦しむ中小企業であればなおさら、働き方改革を推進しないデメリットは大きい」と小室氏はつけ加える。

現在、日本企業が切実に求めているのは、新たなサービスの創出や技術革新を起こせるイノベーション人材だ。労働者が自らの能力を存分に発揮できる環境の整備は、企業にとって喫緊の課題となっている。

改革実行の好事例にみる、企業と労働者の双方にもたらされるメリット

それでは「働き方改革関連法」の3つの柱に、企業はどのように対応していけばいいのだろうか。

「年次有給休暇の時季指定」「時間外労働の上限規制」「同一労働同一賃金」、それぞれの施策をどのように労働環境に反映することで、成果をあげられるのか。企業の事例をもとにヒントを探っていきたい。

マエダハウジングは、「時間外削減チェックシート」や「時間有給休暇申請チケット」など、制度の「見える化」を進めた

小室氏は「年次有給休暇の時季指定」の好事例として、住宅リフォーム事業を展開する株式会社マエダハウジング(広島県広島市)を挙げた。同社は2017年から働き方改革を本格化させ、チケット1枚で1時間の有給を取得できる「時間有給休暇申請チケット」の導入を行った。そのほか、残りの有給日数を記載した「有給休暇票」を配布するなど工夫を凝らした。

その結果、年次有給休暇の取得率は「17.4%(2016年)」から「69.35%(2019年)」へと大きく増加している。小室氏は同社の施策について語る。

「チケットや票を使って制度を“見える化”したことが、申請のしやすさにつながっている。法改正を社内で制度化するだけではなく、どうすれば社員が主体的に制度を利用できるかを考えることが重要だ」

進め方としては同社の改革はトップダウンからスタートし、軌道に乗ったあとで社員主導のプロジェクトに移行している点が特徴的だ。小室氏はこのプロセスも大切だと語る。「まずはトップが働き方を変えていくんだという本気をしっかりと示す。そのうえで、社員に“やらされ感”が生まれないように、拠点ごと、あるいはチームごとといった小さな単位で自発的に意見やアイデアが出てくる仕組みをつくることが、成功の秘訣だ」

サカタ製作所は、業務の属人化の解消に徹底的に取り組んだ

次に「時間外労働の上限規制」の好事例として挙げられたのが、金属屋根部品を製造販売するメーカー、株式会社サカタ製作所(新潟県長岡市)。創業からおよそ70年の歴史を持つ老舗企業だ。

同社では残業が常態化していることに課題を感じ、2014年に社長が「残業時間ゼロ宣言」をする。

残業ゼロに向けての取り組みで徹底したのは、属人化の解消だ。特定のスキルを持った人材しかできない仕事は、スキルを有する個人の負担を大きくする。また、社の財産となるナレッジの共有にもつながらない。

それを解消すべく、勉強会による知識の共有、多能工の育成や、ITを活用した業務効率化を推進。その結果、2014年の月平均残業時間は17.6時間だったのに対し、15年には5.9時間、19年には1時間となり、残業ほぼゼロの体制を実現している。小室氏は同社の取り組みについてこう語る。

「社内の仕事を洗い出したとき、特定の個人に仕事が依存していたことに気づき、驚く経営者も多い。地味な道のりになるかもしれないが、属人化した仕事を棚卸しコツコツと解消していくことによって、個人、ひいては会社全体の風通しがよくなるはずだ」
また属人化の解消は、育児休業の取得率の向上にもつながっているという。
「同社では2018年から毎年連続して男性社員の育休取得率100%を達成。その結果、社員の家庭では子どもが増えて私生活が充実する一方、復職した社員たちのパフォーマンスも上がっていると聞く。ワーク・ライフ・バランスを実現した好事例だ」

最後に、「同一労働同一賃金」の事例として小室氏が紹介するのは、介護事業を営む社会福祉法人南風会ヘルシーハイム(福岡県北九州市)だ。同法人では、雇用形態にかかわらず従業員の働きぶりを定量的に評価するため、雇用形態に関わらない共通の賃金制度を導入。あわせて職務等級制度も導入し、住居手当や退職金などの待遇についても、支給条件を統一させた。

また、パートタイム労働者・有期雇用労働者への教育訓練は現場でのOJTのみだったが正職員と同様に研修の対象とし、外部の資格取得支援も行った。これら取り組みの結果、2004年度には60%以上あった離職率が2018年度には6~7%になり、離職率の大幅減に成功している。

「同一労働同一賃金というと、賃金制度の見直しだけを想起する経営者が多いがそれだけではない。非正規雇用労働者に付与される休暇数や研修などの改善にも取り組むことで、社内の風通しがよくなりそれぞれのモチベーションが高まる。不合理な待遇差の解消に向けては、賃金のみならず、福利厚生やキャリア形成・能力開発などを含めた取り組みが肝心だ」と小室氏。

数多くの働き方改革に取り組む企業を支援してきた小室氏は、改革の成否を分けるポイントとしてこう付け加える。

「成功している企業に共通しているのは、『心理的安全性』が担保された組織であること。改革の実行には、かつて誰かがつくった仕組みを否定せざるを得ない場面が出てくる。しかし成果をあげるためには、過去や現状の否定を恐れてはいけない。職場にとっていちばん良い施策とは何かを全員で考え、対話を積み重ねることが必要だ。労働者が立場を気にせず発言しやすいように、たとえば、『無記名で付箋にアイデアを書く』などの手法を試してみたりすることで、職場の心理的安全性を高める工夫も取り入れてほしい」

無料相談窓口や助成金など国が企業の取り組みを支援

今まで当たり前としてきた環境をいきなり変えるには時に困難を伴い、取り組みの進め方や費用などに思い悩む企業経営者も少なくないだろう。そのような方に向け、厚生労働省は相談窓口や助成金などといった「働き方改革」を推進するための支援制度を打ち出している。

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全国47都道府県に開設されている「働き方改革推進支援センター」では社会保険労務士などの専門家が常駐し、無料で事業者の労務管理上の悩みを聞き、就業規則の作成方法から賃金規定の見直し、労働関係助成金の活用までアドバイスしてくれる。バックオフィス業務の人手が不足する中小企業にとっても負担が軽減できるので積極的に活用して欲しいと小室氏も勧める。

助成金は「働き方改革推進支援助成金」「業務改善助成金」「キャリアアップ助成金」など複数用意されているので、目的にあったものを選ぶといいだろう。

働き方改革をさらに普及させていくためには、日本国内雇用の約7割を担う中小企業・小規模事業の変革が欠かせない。社員が自律的に考え、変化に強い組織になるのが働き方改革の本懐だ。支援制度を活用しつつ、経営者にとって、労働者にとってより良い働き方を実現していきたい。

取材・文:猪俣奈央子、編集:ヤフー特別企画編集部+ノオト

小室淑恵(こむろよしえ)
(株)ワーク・ライフバランス代表取締役社長
1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方改革コンサルティング」の手法に定評がある。安倍内閣産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会、文部科学省中央教育審議会などの委員を歴任。著書に『プレイングマネージャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)『働き方改革生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)『男性の育休家族・企業・経済はこう変わる』(共著、PHP新書)等多数。「朝メール.com」「介護と仕事の両立ナビ」「WLB組織診断」「育児と仕事の調和プログラムアルモ」等のWEBサービスを開発し、1000社以上に導入。「WLBコンサルタント養成講座」を主宰し、1600名の卒業生が全国で活躍中。私生活では二児の母。