提供:総務省・経済産業省

きっちりマスター しっかりアンサー 経済センサス-活動調査

2021年6月1日

「経済センサス-活動調査」をご存知ですか?国内すべての事業所・企業から、事業内容や売上金額など経済活動に関する回答を集め、日本の産業構造の実態を明らかにするとても重要な調査です。そして、本年6月1日に第3回目の調査が実施されます。ここでは、調査へ理解を深めるとともに、回答にあたっての疑問や不安にお答えするコンテンツをお届けします。

わがまちの
「稼ぐ力」と「雇用力」

日本有数の観光都市 岐阜県高山市。
経済センサス-活動調査で見えた
産業構造の課題と可能性とは

「経済センサス-活動調査」の回答とその集計結果は社会でどのように活用されているのでしょうか? 経済センサスのデータから、どの地域のどの産業に「稼ぐ力」と「雇用力」があるのかを“見える化”している地域経済学者・中村良平先生に、岐阜県高山市、兵庫県豊岡市の事例を交えて解説してもらいました。

中村 良平さん

答えてくれた人

岡山大学 大学院
社会文化科学研究科(経済学系) 特任教授

中村 良平さん

まちづくりや地域振興を、経済学の考え方を使ってどのように理解するか、どういう政策が考えられるかを研究している。日本経済研究所理事、経済産業研究所ファカルティフェロー、水産庁「事業評価に関わる検討委員会」委員、復興庁「福島12市町村の将来像に関する有識者検討委員会」委員なども兼任。

観光業だけではない 
岐阜県高山市の「まちの強み」

――中村先生は経済センサスの結果などから、地域経済の特徴を浮き彫りにする分析や研究を専門にされていますよね。いきなりですが、おもしろい産業構造の事例を教えてください。

世界遺産としても有名な白川郷に近く、伝統的な古い町並みで有名な岐阜県高山市は、特徴的な産業構造を持つといえるでしょう。高山市に多くの雇用を生み出しながら、地域の外からもお金を稼いでくる産業があるとすればどんなものを思い浮かべますか?

――やはり飛騨高山といえば観光産業なのではないでしょうか。

その通り! 古い町並みだけでなく、豊かな自然やスキー場、温泉地など多くの観光資源を有し、観光客数が年間470万人を超える国内有数の観光都市です。その中で宿泊業は非常に多くの収益と雇用を高山市に生みだしています。

飛騨高山の古い町並み/高山市提供

また平成の大合併で高山市の面積は全国の市町村で最大となりましたが、市域の92%を山林が占めています。林業はもちろん、この豊かな林産資源を使った木製品や「飛騨の家具」といった伝統産業も大きな稼ぐ力を持っているんです。ブランド牛である飛騨牛を育てる畜産業も主要産業ですね。

――観光産業だけでなく、伝統産業をはじめとするものづくりなどバラエティ豊かな産業がまちを支えているんですね!

しかし現在の高山市の人口は9万人を下回り、微減傾向が続いています。林業や木製品業といった地場産業や伝統産業も担い手が不足しているほか、雇用機会の多様性も少なく、「観光客は多くても、若者を中心に転出者が増え、常住人口が減少している」ことが市としての課題になっていました。

高山市の職員の方も観光産業だけではなく家具などの木製品が地域の外から資金を稼いでいることは肌感覚でわかっていらっしゃったようですが、例えば飛騨の家具が、どの程度の強みを持った産業なのか、具体的な把握に苦慮していました。

そこで市は早くから産業構造の分析に強い関心を持ち、経済センサスのような統計データを使って地域経済の「見える化」に力を入れています。現在、結果をもとにさまざまなまちづくりに取り組んでいる状況です。

人口や雇用を増やすのは「まちの
中」より「まちの外」の経済

――中村先生はどのようにして各都市の「稼ぐ力」「雇用力」を算出しているのでしょうか?

順を追って説明していきましょう。まずは地域の産業を「基盤産業」と「非基盤産業」の2つにわけて考えていきます。

まちの経済の見方:まちの産業二分法

「基盤産業」とは当該地域の外を主たるマーケット(販売市場)とする産業で、域外市場産業ともいいます。つまり、「まちの外」からお金を稼いできて、そこからの所得が地域内の様々なサービス関連の産業に対する需要へとお金が回っている(循環している)のです。

一般的には、農林水産業などの一次産業全般、二次産業では鉱業、製造業など、三次産業では宿泊業、運輸業などが基盤産業に該当します。東京のような大都市においては、サービス業の中にも域外にサービスを移出している基盤産業が少なからずあります。

それに対して「非基盤産業」とは、その地域の中を主たる販売市場としている産業です。二次産業では建設業、三次産業では小売業、対個人へのサービス業、不動産業、金融業、地方公務などが該当します。これは、域内市場産業ともいわれています。

例えば高山市で旅館を営んでいる人は、市外からの観光客を相手に商売を営んでいますが、自身の夕飯の食材は地元のスーパーで買ったり、髪を切りたいときも周辺の理容・美容店を利用したりしますよね。つまり、非基盤産業はその地域に住む人によって生まれる「まちの中」の需要を対象に営まれる産業を指します。

――「基盤産業」と「非基盤産業」はどのように作用しあっているのですか?

「非基盤産業」は、派生産業とも呼ばれています。なぜかというと「基盤産業」の事業所や企業における雇用者数が増えることで「非基盤産業」の数も増えるからです。

例えば、ある地域に機械部品を製造する工場ができて、100人の雇用が生まれたとしましょう。この100人は、工場のある地域の中からの転職者ではなく、地域の外からやってくる人たちを想定します。そうすると、まず100人が住む家が必要になるので、建築業・建設業に需要が生まれます。建物の工事には仕入れが必要になるので、卸業・製造業も必要です。また、多くの対個人サービス業などにも追加的な需要が生まれるでしょう。

このようにたくさんの産業に派生することによって、工場が雇用する100人に対して、非基盤産業に300人以上(まちの人口規模や機能にもよるが概ね300~500人)の雇用が生まれます。就業者の平均世帯人数を2.5人と仮定すると、結果的に「まちのなか」の人口は1000人も増えていますよね。

基盤産業の創出が人口増につながる(計算例)

人が暮らす上で必要な産業活動のニーズが高まっていくことで、その地域の経済は次第に活性化していくことが期待されます。

――「基盤産業」が増えると同時に派生産業の雇用も増え、人口も増加するということですね!

雇用面で捉えると、その通りです。発想を転換すると、人口を増やすためには、外からお金を呼び込む「基盤産業」を増やせばいいという考え方ができます。

もし工場で雇用された人に家族がいればその数はもっと増えますし、派生する産業に多様性があれば、その分波及効果も大きくなるということです。持続可能性があって「地域の付加価値」を生み出せるようなしっかりとした基盤産業を見出して育てることが大切です。

――高山市だったら観光業といったように、その地域の基盤産業はなんとなく想像することはできますが、どうしたらより正確に各都市の「強力な基盤産業」を知ることができるのでしょうか?

いい質問ですね。それを知るために、経済センサスの調査結果が役に立ってきます。地域の稼ぐ力を測るための指標として、「特化係数」と「修正特化係数」という指数を使います。

「特化係数」は、その地域の“特定の産業の従業者比率”が全国平均比でどれだけ高いか求めた指数です。

特化係数の求め方

平成26年の経済センサス基礎調査の結果をもとに、高山市の家具・装備品の具体例を見てみましょう。
高山市の家具・装備品産業の従事者比率(約2.18%)を日本全体の家具・装備品従事者比率(約0.25%)で割った値(約8.72)が高山市の家具・装備品業の特化係数になります。この8.72という数字は、日本国内の特化係数ですが、日本は外国と交易をしているので、もっと範囲を広げ、世界における産業の相対的な強みとして考えることができるわけです。

このように、特化係数をさらに国の自給率などで調整して、地域の産業が世界的に見てどれほど強いか表した指数が「修正特化係数」で、いわば「地域の稼ぐ力」を示した指数です。

大まかに言えば、修正特化係数が1.0を超えると「稼ぐ力」がある産業だということになります。1.0を上回る分だけその産業には「まちの外」からお金を稼いでいる従業者が多くいて、基盤産業となっていることがわかる、という考え方です。

例えば高山市で修正特化係数が1.0以上の産業は、化学工業や鉄道業など。1.5以上とさらに大きなものだと、宿泊業、家具・装備品、林業などが該当します。

――なるほど、なんとなくまちの強みに思えた観光業や地場産業に、しっかり「まちの外」で稼ぐ力があることが見えてきましたね。

チャート図で浮き彫りに 
「稼ぐ力」と「雇用力」のある産業

ここからさらに、高山市のどの産業に「稼ぐ力」と「雇用力」があるのか可視化してみます。97に分類された産業を抽出し、それぞれの修正特化係数をチャート図にまとめてみました。縦軸を雇用力(産業ごとの従業者の構成比)、横軸を稼ぐ力(修正特化係数の自然対数値)としています。

岐阜県高山市のチャート図
岐阜県高山市のチャート図(黄枠内を拡大)

――このチャート図はどのように読み取れば良いのでしょうか。

雇用力(縦軸)が3.0%以上あるかないか、稼ぐ力(横軸、修正特化係数)が0より大きいか小さいかの基準で4パターンに分類すると読み取りやすいでしょう。

チャート図の読み取り方:パターン分類
中村良平『まちづくり構造改革Ⅱ』(2019年)の73頁、図4.2に基づいて作成

こちらの図のⅡ、「稼ぐ力はあるが雇用吸収力は大きくない」パターンには、製造工程が機械化された大工場のように、資本労働比率の高い産業分野が該当しやすいです。Ⅲのような「域外からお金を稼ぐ力はさほどないが、雇用吸収力はある」パターンには、労働集約型のサービス業が多く、福祉・介護、学校教育、小売業が当てはまる傾向にあります。

――このチャート図とパターン分類から、高山市の産業のどんなことが見えてくるのでしょうか?

Ⅱに当てはまる林業や家具・装備品が、「稼ぐ力」のある高山市の基盤産業であることがわかります。しかし、宿泊業や福祉・介護に比べ「雇用力」が伴わないことから課題が残ります。

ちなみにⅠに当てはまる項目は、安定的な基盤が築けていると考えられるので、この強みをさらに伸ばしていくとよいでしょう。Ⅲに当てはまる産業は、全国どの地域にも存在するサービス業が多いため、この分野をあえて強みとする必要はありません。

注目したいのはⅣで、一見すると稼ぐ力も雇用力もない、その地域にとって必要のないように見えます。しかしそれは間違いで、よく見ると今後成長が期待される分野や、雇用がもっと増えそうな分野、他の産業とつながりを持つことができればもっと伸びそうな産業が隠れていることがあります。高山市のチャート図でいくと、情報サービスや映像・音声・文字、広告業が該当しますね。

例えば、飛騨牛を使った商品を売り出すときに、宣伝するための商品写真やパッケージデザイン、通信販売のためのホームページ作成などは必須の要素です。そこを下支えする情報・通信業やIT関連サービスが成長の糸口になってきます。

――他の分野の成長を促しうるIT産業の課題が、チャート図で浮き彫りになったわけですね。

はい。ITやクリエイティブ分野の人材が高山市内に乏しいことがわかったので、市ではIT関係の技術者の誘致やIターン・Uターン希望者を募る補助施策を具体的に打ち出しました。

2017年7月に、高山市でサテライトオフィスの開設を検討している方に無料で体験できる「飛騨高山お試しサテライトオフィス」を開設。2019年10月には、高山市で起業を検討している人に施設を無料で提供する「飛騨高山インキュベーションセンター」を開設しました。2020年10月にも、地域の高校生を対象に「地域の未来を担うIT人材の育成」をテーマとしたセミナーを開催しています。

飛騨高山お試しサテライトオフィス/高山市提供

――チャート図を見ることで、地域内の産業のどこに力を入れていくか、どういう施策を打ち出していけばいいか戦略が立てられるということですね。他にもチャートをもとに政策立案が行われた自治体の事例はありますか?

兵庫県豊岡市もおもしろい施策を実施しています。まずは豊岡市のチャート図の福祉・介護に注目してみましょう。福祉・介護が雇用力として圧倒的に突出していることがわかります。

兵庫県豊岡市のチャート図

多くの雇用を生み出しているのは喜ばしい状況に見えますが、実は福祉・介護の需要が高いということは、その地域に自分の力で生活することが難しい高齢者が多いことも示しています。

そこで豊岡市は、市民の健康寿命を延ばすために2019年3月から「とよおか歩子(あるこ)」という施策を打ち出しました。スマートフォンにアプリをダウンロードすると、自分で設定した目標歩数を超えた日に「運動健康ポイント」が1ポイント貯まります。このポイントは、市内の小中学校や幼稚園、保育園に寄付することができる仕組みになっています。

アプリ「とよおか歩子(あるこ)」の画面/豊岡市提供

2020年12月末で3000人以上の方が寄付をされており、「子どもたちのために歩く」という動機で、多くの人が積極的に参加しウォーキングに励んでいるようです。歩いて健康寿命を延ばすことで、福祉・介護が必要な人を減らし、福祉・介護の従業者構成比を長期的に下げる効果も期待できます。

――ITも上手く取り入れながら、地域の「雇用」に関わる課題を解決するためのおもしろい取り組みですね。豊岡市は「稼ぐ力」についての取り組みも何かされているのでしょうか?

「稼ぐ力」の観点でいくと、豊岡市はなめし革を使った鞄(かばん)製品が強みで、日本一の鞄のまちと言われています。しかしこのような伝統産業は、家内制手工業のようなスタイルが多く、従業者をたくさん雇えなかったり、後継者が確保できなかったりすることで途絶えてしまう可能性があります。

そこで2013年頃、市内に鞄製造を一貫して学べる工房「アルチザンスクール」や「鞄縫製者トレーニングセンター」を作り、市内外から鞄づくりに携わりたい人材を募りました。その結果、鞄業界の人材確保と生産拡大につながっています。

鞄縫製者トレーニングセンターの様子/豊岡市提供

——データやチャート図を活用することで、その地域の強みや「稼ぐ力」、「雇用力」まで、たくさんのことがわかると知り、経済センサスの重要性を改めて認識しました。

チャート図は、計算の仕方も割合と対数の比率を取るだけなのでとてもシンプルです。中高生でも十分理解できるデータの利活用となっています。

今後社会に羽ばたく若者たちが、自分の住むまちでどのような産業を伸ばせていけば暮らしが良くなるかを発見することができるので、教育的な効果や将来的な地域雇用への貢献も期待できます。日本経済の未来の指針を様々な角度から示す情報につながるので、ぜひ対象の事業所・企業のみなさんには経済センサス-活動調査への回答をお願いしたいと思います。

[経済基盤モデル、稼ぐ力と雇用力に関する参考文献]
・中村良平「まちづくり構造改革:地域経済構造をデザインする」(日本加除出版、2014年3月)
・中村良平「まちづくり構造改革Ⅱ:新たな展開と実践」(日本加除出版、2019年2月)

取材・文:ユウミハイフィールド
企画・編集:ヤフー特別企画編集部+ノオト